「発作的な病気」ではない
〜気管支喘息と上手につきあうために〜
「ゼーゼー、ヒューヒュー」という呼吸の音。夜中や明け方に咳がとまらず、息苦しさで目が覚める。こうした症状でつらい思いをされている方は、決して少なくありません。日本では子どもから大人まで、およそ十人に一人が気管支喘息を経験するといわれています。身近でありながら、意外と誤解の多い病気でもあります。
喘息は「気道の慢性的な炎症」
喘息というと、「発作が起きたときの病気」というイメージを持つ方が多いかもしれません。けれども本当の姿は少し違います。喘息は、空気の通り道である気管支に、ふだんから慢性的な炎症がくすぶっている病気です。
炎症が続いた気道は、とても敏感になっています。健康な人なら何ともない刺激――冷たい空気、たばこの煙、ホコリ、運動、かぜのウイルスなど――に過敏に反応し、気道がきゅっと狭くなってしまう。そこに痰がからみ、空気が通りにくくなることで、あの特徴的な呼吸の音や息苦しさ、しつこい咳が現れます。これが「発作」の正体です。
つまり、発作は氷山の一角。症状が落ち着いて見えるときも、水面下では炎症がじわじわと続いていることが多いのです。
引き金になりやすいもの
人によって発作の「引き金(トリガー)」はさまざまで、自分がどんなときに症状が出やすいかを知っておくことは、上手な対策の第一歩になります。
代表的なもの
- ダニ、ハウスダスト
- ペットの毛・花粉などのアレルギー物質
- かぜなどの呼吸器感染
- たばこの煙や大気汚染
- 急な気温の変化
- 運動、ストレス など
治療の主役は「炎症を抑える薬」
喘息の薬には、大きく分けて二つの役割があります。ひとつは、発作が起きたときに狭くなった気道を素早く広げる「発作止め」。もうひとつは、ふだんから炎症そのものを抑え、発作が起きにくい状態を保つ「長期管理薬」です。
苦しいときに頼りになるのは前者ですが、喘息のコントロールでより重要なのは後者、とくに吸入ステロイド薬です。気道の炎症を根もとから鎮めてくれる、いわば治療の土台となる薬です。
ところが、「症状がないのに薬を続けるのは無駄では?」と感じて、自己判断でやめてしまう方が少なくありません。これはとても惜しいことです。炎症は症状がなくても続いているため、薬をやめると再びくすぶり始め、大きな発作につながることもあります。調子がいいのは、薬がしっかり効いている証拠と考えて、医師の指示どおりに続けることが、結果的に発作の少ない快適な毎日につながります。
吸入薬は、正しく吸えていないと効果が十分に出ません。使い方に不安があれば、遠慮なく医師や薬剤師に確認してみてください。
毎日の暮らしでできること
薬と並んで、生活の工夫も大きな助けになります。
生活の工夫の例
- 寝具をこまめに洗う
- 部屋の掃除や換気で室内のホコリやダニを減らす
- たばこは本人も周囲も避ける
- かぜやインフルエンザの予防を心がける
- 体調や症状を簡単に記録しておく(「雨の日に体調が悪い」など自分の傾向が見えてきたり、診察のときにも役立ちます)
運動については、「喘息だから運動を控えるべき」と思い込む必要はありません。コントロールが良好であれば、多くの方がスポーツを楽しめます。実際、トップアスリートの中にも喘息とつきあいながら活躍している人がたくさんいます。
「いつもと違う」と感じたら
もし、発作止めを使う回数が増えてきた、夜間や明け方の症状が続く、息苦しさで日常生活に支障が出る――そんなときは、コントロールがうまくいっていないサインかもしれません。我慢せず、早めに受診してください。とくに、言葉が出ないほど苦しい、唇や爪が青白い、横になれないといった強い症状は緊急のサインです。ためらわず医療機関を受診しましょう。
おわりに
気管支喘息は、残念ながら「完全に消えてなくなる」とは限らない病気です。けれども炎症をきちんと抑え、引き金を避け、上手につきあっていけば、発作に脅かされることなく、ふつうの毎日を送ることは十分に可能です。
大切なのは、症状がないときも気道の中で起きていることに目を向け、治療を「自分ごと」として続けていくこと。喘息は、敵として戦う相手ではなく、長くつきあっていくパートナーのようなものなのかもしれません。
喘息だと思ったら実は心不全の発作だった、ということも少なくありません。当院では「呼吸が苦しい」という症状の患者さんを数多く経験してきた循環器専門医が診察しますので、息苦しさや喘鳴を自覚した際は、早めに当院へご相談ください。
